[PHP-dev 802]Re: mbfilter/mbregexのライセンス問題について

Ko Kazaana kaza @ kk.iij4u.or.jp
2003年 6月 21日 (土) 12:34:07 JST


 こんにちは。風穴(かざあな)と申します。

 PHPや、ましてはPHPの開発に関してはあまり詳しくないのですが、ライセンス
問題については何かお手伝いが出来るかもと思って発言します。

 もちろん一連の過去の議論は読みましたが、PHP開発の全貌を把握しているわ
けではないので、勘違いしていることがあるかもしれません。その場合、議論の
妨げになるようでしたら、遠慮なく無視して頂いて構いません。_o_


 以下「#」で始まる行は、本筋とは直接には関連しない「注釈」です。鬱陶し
いようなら「grep -v "^\#"」などとして読んで頂いても問題ありません。



= On Sat, Jun 21, 2003 at 01:08:36AM +0900,
= Rui Hirokawa-san wrote:
(snip)
> まず、PHP3では実質的に日本ローカルで配布され、
> PHP4で塚田さんが独立したモジュールjstringとして配布されていた
> コードをベースにmbstringとしてPHP 4.0.6以降本家のソースコードに
> マージされたことは皆さんもご存じのことかと思います。
> この後、マージしたライセンスのコードがGPLに基づいていた関係で、
> PHPライセンスと互換性がなく、著作権者にお願いしてLGPLに変更して
> 頂きました。
(snip)

 ライブラリの利用に際して、そのライセンスが問題となった場合の解決方法と
して、「ライブラリのライセンスを変更してもらう」というのが、唯一絶対の解
というわけではありません。

 つまり、「問題のライブラリを使い続けるなら、アクセンス・テクノロジー社
にライセンスを変更してもらうしか方法がない」というわけではない、というこ
とです。

 この点を理解すれば、もう少し柔軟な議論ができるのではないかと思います。


 例えば、「PHP開発に関して、特定の誰かに、別のライセンスで提供する」と
いう方法があります。

 図にすると、こんな感じです。

    ┏━━┓        ┏━━━┓        ┏━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃PHP ┃ <----- ┃Aさん ┃ <----  ┃アクセンス・テクノロジー社┃
    ┗━━┛        ┗━━━┛        ┗━━━━━━━━━━━━━┛

 具体的には、アクセンス・テクノロジー社は、特定の誰か(個人でも、法人格
がある団体でも構いませんが、今回の場合は、これに関わっている日本人の、誰
か信用できる個人にしたほうが、いろいろ楽チンだと思います)との間で、 PHP
開発への利用に関して、(単体のライブラリとして配布している際に利用してい
るライセンスとは別の)特別なライセンス契約を結びます。この「特別な契約」
では、AさんがそのライブラリをPHP開発に利用する場合に限って(別に限らなく
ても良いのですが)、ある程度自由に出来る、というようなことになっていれば
良いわけです(詳しくは後述しますが、sgkさんが書かれている著作権者の意向
として、それは問題ないだろうと読み取りました)。

 この方法の利点は、Aさんが、アクセンス・テクノロジー社との契約を遵守し
ている限り、PHP開発におけるライセンスの議論等に、アクセンス・テクノロジー
社が直接巻き込まれることがなくなる、という点です。今回のように、著作権法
やライセンスに関してよく分かっていない人たちから「不便だから、大もとのラ
イブラリのライセンスを変更せよ」なんて、理不尽なことを言われることもなく
なります。

#  アクセンス・テクノロジー社が配布するライブラリ単体のライセンスは、こ
# れまで通り、何も変更する必要はありません。つまり、そのライブラリは複数
# のライセンスで提供される、という状態になるだけです。

#  「BSDラインセンスにすればいいじゃないか」という意見もあるようですが、
# 著作権者の意向を無視して、そういうことを言うのは失礼だと思います。著作
# 権者の意向を尊重していないと受け止められても仕方ありません。理由はどう
# であれ、現在において著作権者がそれを選択していないということは尊重され
# るべきです。

#  さらに言うと「BSDライセンス」というのは、「ソースコードによるフィー
# ドバック(公開)は別になくても構わない」というライセンスですので、「オー
# プンソース」を開発モデルとして考えた場合(ERSが言うところの「バザール
# モデル」)、それを必ずしも期待していないという点で「比較的消極的なオー
# プンソース」だと言えると思います。なので、「オープンソース」という開発
# モデルを「利点」として考えている場合は、安易にそれを勧めるのはどうかと
# 思います。ましてや、この場合、著作権者が「誰かが機能を拡張したら、その
# 部分も公開されて欲しい」(sgkさんの発言による)という意向を持っている
# のですから、そこに対してBSDライセンスを勧めるのは「著作権者の意向を無
# 視」した失礼な提案だと思います。

#  フリーソフトウェア(FSFが言う「The Free Software」)をフリーソフトウェ
# アたらしめているのも、すべては「著作権者の権利が尊重される」ということ
# が大前提なのです(rmsにとっては、そういう方法を取らざるを得ないのは不
# 本意かもしれませんが、現実にはそうです)。オープンソースソフトウェアに
# してもそうです。ですから、フリーソフトウェアやオープンソースソフトウェ
# アに関わる人々こそ、そうした著作権者の権利に敏感である必要があると思い
# ます。フリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアは、決して「権利な
# んかどうでもいい」と思っているわけではないのです。



 ここで、Aさんと、アクセンス・テクノロジー社との間で結ばれる契約は、ア
クセンス・テクノロジー社の意向が反映されてさえいれば、どんな内容、どんな
形のものでも構いません。なので、手間をかけたくなければ、手間をかけないや
り方も十分可能です。

 もちろん、ここで「GPL」や「LGPL」にこだわる必要はありません。公衆に対
する一般的なライセンスとする場合には、GPLやLGPLのような広く知られている
(といっても、理解されているとは限りませんが ;-))ものを雛型として利用す
れば、利用する方も分かりやすい、という利点がありますが、Aさんとアクセン
ス・テクノロジー社との間では、そういう点は考慮する必要はありませんので。


 ライセンス(今回の議論では「利用許諾契約」)というのは、当事者間の合意
であればよく、特に、その当事者間でそれを巡って争いとなる可能性が極めて低
ければ、文面も、特に難しく考える必要はありません。法律上は(少なくとも日
本国内法上は)、口約束でも契約は成立します。

 sgkさんが書かれているように、著作権者の意向が

= On Fri, Jun 20, 2003 at 12:42:05PM +0900,
= sgk-san wrote:
(snip)
> ・このソフトウェアの公開について当社の希望は以下のとおり。
>  1.誰かが機能を拡張したら、その部分も公開されて欲しい。
>  2.ライブラリとして不特定のソフトウェアで利用できる状態を保ちたい。
>  3.ただし、ライブラリが.aとか.soとか.tar.gzを意味するわけではなく、
>   より一般用語的意味でのライブラリ=再利用可能性を意味する。
>  4.氏名表示権が尊重されて欲しい。
(snip)

ということであれば、Aさんとの間で、こういう条件の下にライセンスする、と
いう契約を結べばいいだけです。この「契約」は、口約束でもまったく構わない
のですが、会社として契約を文言で残したいという場合でも、上記のsgkさんが
メール書かれている文面をそのまま「ライセンス条文」としても、事実上は問題
がありません。そのやり取りがメールでやられていても、十分成立します。

# 「問題」というか、多少困ったことになるのは、この契約巡って裁判になった
# ときですが、それでも「不利になる」というようなことではなくて、多少、立
# 証などに手間がかかる、という程度です。今回の場合は、すでにこのように公
# 開で議論されていて、sgkさんから著作権者の意向が明確に示されているわけ
# ですから、明示的な契約文がなくても契約意図は十分立証可能だと思います。
# ましてや、Aさんとの間で、そのことを巡った争いになる確率が限りなく低い
# のであれば、事実上は、あまり難しく考える必要はないと思います。



 sgkさんが書かれている著作権者の意向をくみ取ると(もし違っていたらご指
摘ください)、アクセンス・テクノロジー社が権利を持っているライブラリを
PHPの開発に利用し、それをPHPと共に配布すること(その際にPHP本体と同じよ
うに再配布すること等も認めること)などは、著作権者として許諾しても良いと
考えている、と理解しています。

 もしそうであれば、アクセンス・テクノロジー社からAさんへのライセンスの
中に、「アクセンス・テクノロジー社からライセンスされたライブラリを、Aさ
んがPHPに関して利用する場合、それをPHPに適合する何らかの別のライセンスで
ライセンスすることもできる」という契約にすれば、より柔軟度が上がると思い
ます。この部分でLGPLなり何なりを選択すれば、対「PHP開発コミュニティ」と
いう側面でも「分かりやすいライセンス」になるでしょう。



 あと、アクセンス・テクノロジー社の意向として、著作権者表示をきちんと入
れてほしい、というのがありますが、これは当然守られるべきです。私が上で述
べたような、方法を取る場合でも、アクセンス・テクノロジー社の著作権者表示
は、きちんと入れられなければなりません。このことは、アクセンス・テクノロ
ジー社とAさんとの契約に「入れること」を明記しても、しなくても、変わりま
せん。

 逆に言えば、アクセンス・テクノロジー社とAさんとの契約で、「著作権者表
示は入れなくて良い(=この件に関して、アクセンス・テクノロジー社は氏名表
示権を行使しない)」という明示的な契約が行われない限り、ということです。

 ちなみに、こういうライセンスの議論の際には、著作者人格権は、どんなこと
があっても尊重されなければならない、という点が、よく見落とされがちです。
氏名表示権や同一性保持権は、特に明示的にその権利を行使しないという意志が
表明されていない限り、尊重しなければなりません(特に日本の国内法では)。
著作権の議論というと、とかく著作権の財産的な権利にばかり目がいきがちです
が、著作者人格権にも十分注意を払う必要があります。


 ということで、以上、参考になれば幸いです。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 なお、以下は、今後の建設的な議論の参考になればと思って書く、私の感想です。

 過去の議論を参照しましたが、一部で議論がかみ合わない状況になっているのは、
やはり著作権やライセンスに関する理解が足りないからだと感じました。

 GPLやLGPLというのは、まさにsgkさんが指摘されていたように、フリーソフト
ウェアライセンスの「便利な雛型」であって「法律」ではありません。なので、
「GPL違反」とか「LGPL違反」という言い方は正しくありませんし、議論の混乱
の元にもなりかねません。

 「GPLに矛盾」、「LGPLに矛盾」というのも、ありえません。著作権者は、著
作物に対して、著作権法で定められた権利を(著作権法に定められた範囲で)絶
対的に持っていますので、著作権者の意向が「すべて」なのです。

 「GPLに矛盾」と言われているようなことは、「ライセンスの意図が分かりに
くい」ということではあっても、それによって権利が消滅したりすることはあり
ません。文言がどうなっていようが、著作権者が著作権法で認められた権利を行
使できることには変わりはないのです。

 まずは、こういうところまで理解できれば、私が上で述べたような「デュアル
ライセンス」の考え方も飲み込めると思います。


# と偉そうに書きましたが、私も過去にはいろいろ誤解していた経験があるとい
# うことを正直に告白しておきます。(^_^;

-- 
Ko Kazaana / editor-in-chief of "TechStyle" ( http://techstyle.jp/ )
GnuPG Fingerprint = 1A50 B204 46BD EE22 2E8C  903F F2EB CEA7 4BCF 808F


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